コモンズ型学校評価
実践事例

浦幌町浦幌学園(浦幌小学校・厚内小学校・浦幌中学校)での実践事例を紹介します。

 浦幌町は北海道東南部に位置する、約5,100人ほどの町です。平成27年度より、町内2つの中学校区が、小中一貫型のコミュニティ・スクール(学園)となっています。学校、家庭、NPO、近隣の教育大学、地域有志などとの関わりを整理しながら、学校経営への理解と協力体制を構築するために、コモンズ型学校評価を実践しています。

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担い手の定義

 浦幌町では学校を中心としたコミュニティを想定し、これまでの学校教育の活動に関わる担い手を整理した。まず、小中学校の教職員、子供、家庭を担い手として位置付けた。家庭については、小中のPTA会長からワークショップ参加や意見の取りまとめの協力を得ることとなった。地域の担い手は、浦幌の地域の現状や経緯を知っている人、これまで何らかの学校支援活動に携わった経験のある組織や団体などである。浦幌町では地域有志による支援活動が以前より活発に行われており、学校教育への協力を得やすい人的・組織的環境があった。


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目指す子供像の設定

 浦幌小学校・厚内小学校・浦幌中学校のそれぞれの校長・教頭によって、各学校の教育目標や学校経営計画を振り返りながら、浦幌町の子供たちにとっての目指す姿についての意見交換を行った。その結果、4つが「目指す子供像」としてまとめられた。学校教育の基本的な視点は、「知」「徳」「体」という3つの重点が共通の傾向として見られる。そしてもう一つは、浦幌という地域への愛着や想いを持ちながら成長してほしいという考えが活発に議論された。

  1. 自ら考える人(知:学力定着および向上面の課題群)
  2. 思いやりのある人(徳:自己肯定感や他者受容感を高める課題群)
  3. たくましい人(体:身体的健康、基本的生活習慣を身につけるための課題群)
  4. 未来を拓く人(地域への愛着:家庭や地域との協働によって、地域を愛する教育を行うための課題群)
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気づきの共有


(1)教職員ワークショップの実施

教職員ワークショップの様子

 2015年9月に小中学校の全教職員によるワークショップを実施し、小中教職員を交えた9つのグループを編成した。


(2)保護者・地域ワークショップの実施

家庭・地域ワークショップの様子

 教職員ワークショップと併せて、保護者や地域の意見交換を行うワークショップも実施した。教職員・保護者・地域が同時に実施する場合もあるが、浦幌町の場合は、教職員が主体的に家庭や地域との取組を推進したいという意向から、教職員向けワークショップでの結果を踏まえた後に、保護者・地域ワークショップを実施することとなった。

 2015年10月に、保護者・地域ワークショップを実施し、保護者(各校PTA役員)、地域(CS委員)から参加を得て、8グループによる熟議を行った。


(3)児童・生徒ワークショップの実施

 児童・生徒の気づきをまとめるにあたり、それぞれの学校の児童会・生徒会に所属している子供たちに集まってもらい、熟議を行った。

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気づきの集約

 教職員グループ(9)、家庭・地域グループ(8)のまとめの模造紙と付箋をそれぞれ分解し、一つのシートに整理した。教職員グループからは約440の付箋による発言、保護者・地域グループからは約320の付箋による発言を得た。また、生徒会・児童会グループからは、約100の付箋による発言を得た。この発言を基に目指す子供像に照らし合わせながら整理した。教職員グループの発言を12の課題、子供の発言を10の課題、家庭の発言を14の課題、地域の発言を8の課題として整理しなおした。

 集約にあたり、プロトタイプとして示したフォーマットに課題を記入し、整理を行った。

気づきの集約
気づきの集約(フォーマットへの記入)
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課題候補の選定

 この課題群の精査にあたり、教職員および保護者グループから意見を得るために調査を行った。


(1)教職員向けアンケートの実施と結果

 小学校および中学校教職員に対し、具体的に課題候補を推進する場合に、実際にどのような指導上の工夫や体制づくりが可能か、自由記述形式で調査を行った。

子供が探究心を持って挑戦する授業づくり

  • 小学校
    • 子供の興味を引く課題提示、児童主体の授業
    • 課題設定の工夫。
    • めあて(自分は何ができればいいのか)を明確にする。
    • 課題の明確化
    • 自力解決の時間の確保
    • アクティブラーニングの導入
    • クイズ形式や学んだことを活かしてモノづくりなど
    • 身近なものを課題とした授業づくり
    • 先生方同士の授業研究や実践→子供目線で考える授業をつくれる
    • 子供の興味をひく教材発掘
    • 子供が自由に話ができる雰囲気作り
    • 子供の実生活や将来との結びつきを意識させた上で、主体的に考えさせる
    • できるだけ日常生活に近い課題を設定することで、遊んで調べようとする心が生まれるのではないか
    • 体験的な学習、学び合い
    • 教材研究
    • 知的好奇心をくすぐる学習内容
    • 教材研究
    • 教職員一人ひとりの研修をしようとする気持ちが高いこと
    • 児童理解
    • 「できそうな気がするけれど、わからない」程よい課題の設定
  • 中学校
    • アクティブラーニング
    • 適切な難易度の課題設定と、十分な活動時間を確保した授業づくり
    • 子供にとって身近なものや興味をひくものを題材にして取り上げて、思考する場面を多くする
    • 毎時間振り返りの時間をつくり、「できた」「わかった」という達成感を味わえる授業を展開する
    • 教科書では学べないマニアックな授業?
    • 魅力的な教材づくり

(2)保護者向けアンケート

 保護者に対しては、12の課題の中でのニーズの重み付けのための質問紙調査を行った。重み付けにあたっては、重要度-実現度分析を実施し、ニーズの数値を測定した。

保護者アンケート結果(ニーズ表)
保護者アンケート結果(ニーズ表)

 重要度および実現度の数値を元に、課題の散布図を作成した。

保護者の課題散布図
保護者の課題散布図

 この分析によって、保護者ニーズが特に強い課題は、以下の3つであることが明らかになった。

  • 子供が家庭学習に集中できるような環境(場所・時間)を作ること
  • 子供のゲームや携帯・スマホの利用ルールを決めること
  • 子供が身だしなみや身の回りの整理整頓ができるようにすること
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コミュニティ・スクールの経営課題への位置付け

 ⑤での調査結果を踏まえ、コミュニティ・スクール委員会において、課題の最終的な精査のための意見交換会を実施した。意見交換会には、教職員・家庭・地域が参加し、特に、「学校でやるべきこと」「家庭がやるべきこと」「子供本人がやるべきこと」といった課題について真剣な意見交換が行われた。

コミュニティ・スクール委員会での意見交換

 この意見交換を踏まえ、最終的に課題群を精査しまとめた。図の中の赤く強調した課題は、この議論によって修正ないし加筆された課題である。

課題の最終案
課題の最終案
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現状の調査と自己評価


(1)保護者向けアンケートの実施

 小中学校全ての家庭を対象として、実現度調査を実施し、それぞれの項目についての肯定的な評価の割合を分析した。この数値が基準となり、今後数値目標を定める上での参考データとなる。


(2)子供向けアンケートの実施

 小中学校全ての児童・生徒を対象として、実現度調査を実施した。それぞれの項目について、学年間の比較ができる方式で実現度の肯定的な比較を行った。児童・生徒向け質問項目は以下の通りである。

  1. 学年
  2. 学校は楽しいですか。
  3. 毎日の家庭学習の計画を(帰りの会や家に帰って)立ててから取り組んでいますか。
  4. 一日どれぐらいの時間、ゲーム端末、携帯電話やパソコン等で、ゲーム、電話やメール、LINE(ライン)、インターネットなどをしますか。
  5. 家の人と、ゲーム端末や携帯端末等の使用についてきまりを決め、きまりを守って使用していますか。
  6. 家の人(兄弟姉妹は含みません)と学校での出来事について話をしますか。
  7. 自分から進んであいさつをしますか。
  8. 運動することは好きですか。
  9. 毎日、朝食を食べていますか。
  10. 自分にはよいところがあると思いますか。
  11. 【自由記述】あなたの将来の夢や目標は何ですか。
  12. 人の役に立つことを進んでやろうとしていますか。
  13. いじめはどんなことがあってもいけないことだと思いますか。
  14. 【複数選択】学校が楽しいと思うのはどんなときですか。
  15. 【複数選択】どんなとき、授業がわかったと思いますか。
  16. 【複数選択】自分が悩んでいることがあったとき、誰に相談することが多いですか。
  17. 【複数選択】いじめにあったり、見たりしたときにどうすると思いますか。

 特に保護者が課題として強く意識している「子供が家庭学習に集中できるような環境(場所・時間)を作ること」について、「毎日の家庭学習の計画を(帰りの会や家に帰って)立ててから取り組んでいますか」という質問を設定した。

 数値の落ち込みのある学年や学年進行による変化の数値を参考にしながら、今後の指導や声がけの改善を検討する。教職員の視点からは、宿題の出し方の工夫や授業と宿題の関連性の重視などの意見があり、また家庭の視点では、小学校での習慣づくりという意見が得られた。

 

 また、保護者の懸念事項の一つとして挙げられている、一日あたりの携帯電話(スマートフォン)やパソコンなどのディスプレイ利用時間についても聞いたところ、一日3時間以上ディスプレイ利用に時間を費やす層が小学校3年生段階から3割程度存在していることが明らかになった。

 さらに、家庭での利用ルールの存在について聞いたところ、保護者へのアンケートでは約6割が「家庭でルールを決めている」と答えたが、子供へのアンケート結果からは、特に中学校段階でルールそのものが子供に認識されていない傾向があることが明らかになった。

 

 浦幌町では、これらのアンケート結果を元に年度ごとの検証を行い、学校評価を実施する際の基本的な検証データとして活用する予定である。経年の変化を捉えることで、特定の学年集団の学年進行による変化を捉える視点と、特定の学年の落ち込みなどを発見する視点を持つことができる。これらの視点を持つことによって、より検証の精度を向上させることができる。

 こうした課題の検証を次年度の学校経営計画へ反映させることで、担い手の参加意識と改善の意欲が高まることを期待している。